Thank you シャッチョサン。
JR九州がネット予約のチケットレスサービスを導入すると言って半年。
専用改札機の設置が始まり、駅によっては自動改札機も装飾され、そろそろサービス開始するんじゃないかという状況になってきましたので、ちょっと記事にしてみました。
今回は「なぜ今までチケットレスサービスをやってこなかったのか?」を中心に考察してみます。
なぜ今までしなかったのか?
それはね…
シャッチョサンが運輸系の人から営業系の人に変わったからだよ…
っていう話をすると、話が脱線して事故調査委員会が出てきそうなので、そういう話は完全に無視します。
一番の原因としてJR九州が昔から 「オトクすぎるきっぷを発売している(そうせざる終えない環境になっている)」 というのが考えられます。
JR九州は、インターネット予約サービスの開始や大々的にオススメし始める前から「2枚きっぷ」「4枚きっぷ(※廃止)」という回数券タイプの特別企画乗車券を狂ったかのように安い価格で発売してきました。
今もその流れはネット予約で引き継がれており、指定席利用時のきっぷの金額を「割引なし」「ネット予約の代表的な割引商品(2つ)」「普通・快速列車だけで移動した場合」の4つを比較してみるとわかります。
例えば、私がよく使う「特急ソニック号」でいうと…(※2024年9月時点)
区間 | 割引なし | 九州ネット早特3(ネット予約限定) | 九州ネットきっぷ(ネット予約限定) | 普通・快速列車だけの利用 |
大分〜小倉 | 4,860円 | 2,500円 | 3,040円 | 2,530円 |
大分〜博多 | 6,470円 | 2,550円 | 3,150円 | 3,740円 |
お気づきでしょうか?
大分〜小倉間では「九州ネット早特3」を購入した時点で、大分〜博多間では「九州ネットきっぷ」を購入した時点で「普通列車で苦労して移動するよりも明らかに安い」のです。
きっぷの使用ルール的にはグレーゾーンですが、普通列車で移動するにしても通常のきっぷを買うよりインターネット予約で特急券込みの商品を買ったほうが安いという現象が発生しているのです。
かなり安いきっぷを発売しているのには訳があって、同じく大分〜博多間を走るライバルの高速バス「とよのくに号」がそれ以下の金額で運行しているからです。 実際に「ソニック号」と「とよのくに号」で比較してみましょう。
ㅤ | 割引なし | 最安値 |
JR特急・ソニック号 | 6,470円 | 2,550円(ネット早特3) |
高速バス・とよのくに号 | 3,250円 | 2,300円(WEB早割3) |
割引なしでも「とよのくに号」は3,000円台になっている一方で、「ソニック号」はその倍の金額になっています。
これにも理由があって、そもそも高速バスの運賃がかなり安めで設定されていることに加えて「ソニック号」は、大分を出ると中津・北九州・宗像を経由する遠回りなルートで運行しているため、JRの運賃・料金の計算方法に当てはめると、かなり高額になってしまうのです。
さらに価格以外にもチケットレスサービスができない理由があり、多くの鉄道会社のインターネット予約サービスで行っているチケットレスサービスは「乗車券は別に用意して、特急券をチケットレスにする。」という方法が多いのですが、九州内でそのやり方をしてしまうと、利用客の大半が使っている「九州ネット早特」や「九州ネットきっぷ」が運賃以下の価格で発売しているため、運賃と安いきっぷ金額の差額をどこかで返金しないといけなくなります。(なんなら「お金に困っているから、列車に乗らないけど返金対応を受けるために予約する」という客が出てくることとなり、経営悪化や無法地帯になることが容易に考えられます。)
だからといって、「チケットレスをしやすくするのために値上げします!」なんてしてしまうと、「2枚・4枚きっぷ」の廃止で高速バスに客が流れている中、さらに流れてしまうことになってしまいます。
また、エクスプレス予約のように「SUGOCAやタッチ決済対応のクレジットカードを割引きっぷとして利用する方法」すればいいじゃん!という声があるかと思いますが、そうしてしまうと、二重決済が発生してしまったり、そもそもややこしくなってしまう可能性が高くなります。
それが故に、「チケットレスを導入しようにも導入できない」という状況に陥ってしまい、チケットレス・キャッシュレスがかなり進歩した2024年であっても導入ができなかったと考えられます。
これがJR九州の答えだ…
そんな中、2023年11月30日。
突然、ネット予約のチケットレスサービスを導入することを発表しました。
そのやり方は、インターネット予約サービスどころか、鉄道会社のきっぷとしてはまだまだ発展途上な「QRコード乗車券方式」でした。
「QRコード乗車券方式」自体は最近普及しており、JRで限った話でも、エクスプレス予約の旅行商品やJR四国の「スマートえきちゃん」などで使われています。
また、JR九州管内でも実証実験として、同社の自動改札機を製造している日本信号と協力して「よか旅Signal.com」というQRコード乗車券サービスを長崎・宮崎地区で実証実験として展開しています。
実はこの「よか旅Signal.com」のシステム。 「このシステムの延長線にネット予約のチケットレスサービスがあるじゃないか?」ということがわかってきました。
「よか旅ネット予約」じゃね?これ。
導入間近ということもあり、QRチケレス専用の改札機設置が進むにつれ、「よか旅Signalの延長線」と思えるようなことが増えてきました。
まず、QRチケレス専用の改札機が登場しましたので、実際にその改札機の写真を見てみましょう。
これです。
タブレット端末の下にQRコード読取り機が設置されているスタンド。
この専用改札機、実は「よか旅Signal.com」で使用しているものと同じなのです。
また、自動改札機を設置している駅でも変化が…
これは大分駅の改札機の写真です。
写真のように日本信号の自動改札機「GX-8」を導入している駅では、きっぷ投入口の手前に読み取り機を取り付けるようになってきました。
この読取り機も日本信号がデジタルチケットシステムの開発し、東急電鉄で展開している「Q-SKIP」のものと同じ形をしています。
なお、前世代の「GX-7」を導入している駅では、スタンドタイプの改札機をもっと簡略化したタイプの改札機が壁に設置されています。
これら改札機だけで見ても、このシステムが「よか旅Signalの延長線」である可能性が高いと言えます。
おそらくですが、そうなったのには以下の点があったからと思われます。
- 長崎・宮崎地区で行っていたデジタル乗車券の実証実験が上手くいった
- JR九州の改札システム(自動改札機・自動精算機)は日本信号製の機器を採用している
- 日本信号が「iDONEO(イドネオ)」というMaasシステムを売り込みたかった
まぁ実際に日本信号が関わっているかどうかは、QRコードや表示画面、プレスリリースを見ないとわからないところがあるため、今回はあくまでも「そうじゃないのか?」程度にしておきますが…
「本格導入」という感じはしませんが…
JR九州ネット予約のチケットレスサービスですが、すべての駅・路線・列車で使えるわけではありません。
まず、現時点でわかっている「サービス開始時にできること」としては
- サービスの名前は「ネット予約でQRチケレス」
- サービス開始時期は「2024 年秋(予定)」
- 利用可能な列車は「ソニック号」「にちりんシーガイア(博多〜佐伯間)号」「きらめき号」「リレーかもめ号・新幹線かもめ号」「みどり号・ハウステンボス号」「かささぎ号」「ゆふいんの森号・ゆふ号」のみ
- 購入・利用できるのは博多駅を発着する主要な特急列車(「かいおう」は対象外)および西九州新幹線の運行区間を対象とした特別企画乗車券(おトクなきっぷ)である「かもめ・九州ネットきっぷ」「かもめ・九州ネット早特3」「かもめ・九州ネット早特7」の6商品のみ
①のネーミングセンスは無視をするとして…
まず、②のサービス開始時期が「2024 年秋(予定)」となっています。
「秋」と言われても9月〜11月の間に導入すれば「秋に導入した」と言えるのですが、改札機の設置状況を考えるとそろそろ開始するのかもしれません。
③と④を見る限り、博多駅が混み合っているのをどうにかしたいというのがあるかもしれません。
近年、福岡市の発展や外国人観光客により博多駅のみどりの窓口・指定席券売機ともに混雑することが増えています。
また、主要な割引きっぷがかなり周知されてきたことや会社が人件費を減らしたいという想いで、みどりの窓口を削減しつつ「4枚きっぷ」を廃止してまでネットきっぷへの誘導を強めた結果、平日のお昼前に博多駅へ行くとみどりの窓口・指定席券売機ともに、ネット予約の受取りでごった返しているということを幾度か見たことがあります。
更に休日は、日中から夜まで指定席券売機に使う気が失せるほどのレベルで行列が絶えません。博多駅名物のクロワッサン屋といい勝負です。(当然、日によっては少ない時もありますが…)
当然、会社も「これはピンチだ」という認識は当然あったと思われますが、技術的な解決方法が当時は無かったこと、投資を控えてコストカットを推し進めるという経営スタイルを前経営陣がやっていたこと、新型コロナウイルスの拡大で収入がなくて投資をしたくてもできなかったことが相まってか、かなり長い間放置されてきました。
また博多駅以外にも、一部の特急停車駅で「みどりの窓口の営業時間を短縮する一方で、指定席券売機が設置されていない」というネット予約への誘導をする前にしなきゃいけないことをしていなかったが為に、客から「駅にみどりの窓口も無ければ券売機もない!どう受け取ればいいんだ?!」というクレームが多かったかと思われます。
その結果、客どころかメディアからも厳しい声が当然ながら続出しました。
しかし、「よか旅Signal」の登場などで技術が確立したこと、社長が運輸・技術系の人から営業部長を経験した人に代わったことで、やっとこさ本腰を入れて導入することになったと思われます。
まぁ、利用客として「ここまでが無駄に長かったな…」と感じているのは私だけでしょうか?
ただ、一つ思うことがあります。
それは、「列車・商品限定」で導入するせいか「今回の導入は本格的に感じない」ということです。
そう見えてしまうのは、九州新幹線ではエクスプレス予約・スマートEXに全振りして、ネット予約のQRチケレスは導入しない点や在来線でも全特急列車ではなく、博多発着の特急列車に導入するという点があるからだと思われます。
「将来的にきっぷからQRに置き換えるぞ!」という感じよりかは「とにかく博多駅のみどりの窓口・指定席券売機の行列を減らしたい」というように見え、あくまでも「改札機を通過する手段を増やす」と言ったほうがいいかもしれません。
まぁ「2025年度以降に利用可能範囲・きっぷの種類を拡大する」と会社は言っていますが・・・
今回導入した地域で効果があれば、今後九州南部や普通列車などに導入を進めていくという考えなのかもしれません。本格的なQRチケレスを体験したいのであれば、その日を待つのがいいかと思われます。
ここまで読んで「そもそもQRチケレスをしなくても、早い段階でJQ CARD会員限定のeきっぷという割引の特急券を他社のように特急券だけチケットレスのタイプとして導入しればよかったんじゃね?」とお思いになる方がいるかと思いますが、そうしなかったのは「eきっぷ」自体がネット予約のメイン(フラッグシップ)商品ではない上に、大して安くないから需要が見込めなかったのかな?と個人的には考えています。
長々書きましたが…
旅行中のホテルの中で長ったらしい考察記事を書いてみましたが、いかがだったでしょうか?
正直、ネット予約のデメリットをなんとかしようと行動するのが遅かったような部分が見えますが、その分しっかりとしたシステム・サービスを目指しているような感じにも見えます。
もっと利用できる区間・列車が増えて、SUGOCAのように当たり前な存在になるといいな〜